| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-329

富士山大沢右岸におけるカラマツ年輪の安定同位体比変動に関して

*小林卓也 (電中研・生物), 梨本真 (電中研・生物), 竹内亨 (電中研・生物)

樹木の年輪には、年輪幅による樹木生育状況だけでなく、そこに含まれる炭素等の安定同位体比により樹木の環境応答に関する情報等が記録されている。富士山は比較的歴史が浅いことから、侵入初期の樹木個体が残存する地域が存在し、現在も森林限界の山頂方向への拡大が継続していることが知られている。そのため、年輪から得られる情報を利用することで、気候環境と森林限界の山頂方向への拡大や侵入後の遷移の状況等との関係について解析できる可能性がある。今回、富士山西斜面の大沢右岸において、富士山の代表的な遷移初期種であるカラマツ(Larix kaempferi)を対象に、標高による年輪の炭素安定同位体比(δ13C)の変動について調査した。

大沢の右岸に沿った尾根において、標高1,900m(1,850m〜2,050m)、2,300m(2,200m〜2,350m)に生育するカラマツ、それぞれ134個体、302個体の胸高直径の分布を調査した結果、各標高の最大-最小直径は、それぞれ131-15cm、73-2cmであった。根元部分で内部に腐朽の生じていない個体の最高樹齢は、標高2,300mの約340年であった。根元部分から成長錐コア試料を採取し年輪のδ13Cを測定した結果、大径木において、年輪δ13Cは年輪中心付近で大きな年変動を示すが外周付近の変動が小さくなる傾向が認められた。さらに、標高3,057m地点において、根元直径約5cm、樹齢約60年の個体を確認したことから、標高1,900m、2,300mにおける同程度の樹齢の個体と年輪δ13Cを比較したところ、1,900m、2,300mに比較して3,057mのδ13Cの年変動が大きい傾向が認められ、カラマツが侵入した初期の段階で受けるストレス等をδ13Cを指標にして検出できる可能性が示唆された。


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