| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-345

年輪解析にもとづく猿ヶ森ヒバ埋没林の更新様式と生育環境の復元

*箱崎真隆(東北大・院・生命科学),大和田めぐみ(物材研),吉田明弘,星野安治,大山幹成,鈴木三男(東北大学植物園)

現在、ヒバ(ヒノキアスナロ)は低地にほとんど分布していない。しかし、青森県下北半島太平洋岸の猿ヶ森砂丘(南北約17km)には、約2000〜500年前のヒバ埋没林が産出している。これらは、かつてこの地域にヒバ林が存在したことを示唆している。しかし、このような低地のヒバ林はどのような森林を構成し、どのように更新していたのかは不明である。保存状態の良い埋没木は年輪情報を保持しているため、過去の森林動態や環境変化に関する情報を抽出できることがある。そこで発表者らは、同砂丘の猿ヶ森川(海抜15〜20 m)と材木沢(海抜5〜10 m)流域から埋没木を採集し、これらに年輪年代学を適用した。そして、その成長特性と各個体の相対的な年代関係から、低地に成立したヒバ林の更新様式について考察した。

年輪幅を計測したヒバ埋没木55点の平均年輪数は175.6年(最大431年)だった。このうち、樹芯が残る29点中23点(79.3%)が、根際直径10 cmに達するまで50年以上(最大159年)を要し、それらの成長曲線(積算年輪幅)は、途中から大きく成長が好転するカーブを描いた。これは、多くの個体が前生稚樹を経験していたことを示唆する。

各個体の相対的な年代関係を検討した結果、55点中25点の試料より566年間のクロノロジー(標準年輪曲線)が構築された。これに含まれる個体の14C年代測定の結果、約1000年前から500年以上に渡って成立していたヒバ林であることが明らかとなった。クロノロジーに含まれる各個体の定着年と成長好転期に同時性は認められなかった。したがって、この地域のヒバ林は、前生稚樹が小規模のギャップを随時埋めるような更新様式であったと考えられる。

なお、発表時には埋没層の層相、共存種の組成から、その生育環境についても考察する。


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