| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-016

果実14種の結実量の時期・年次的変化とツキノワグマの採食行動の関係

*中島亜美(東京農工大・農),小池伸介(東京農工大),正木隆(森林総研),山崎晃司(茨城県博),梶光一(東京農工大)

果実の利用可能量がツキノワグマ(Ursus thibetanus)の採食行動に与える影響を明らかにするために、栃木県日光足尾山地において果実13種の結実量およびクマの採食痕跡の時期・年次的変化を調査した。調査は2008年および2009年の7月から11月に10日おきに行なった。標高650mから1600mに3つのルート(各2〜2.5km)を設定し、標高100mおきに20m×20mのプロットを配置した。プロット内の調査木を対象に双眼鏡を用いて単位樹冠面積当たりの果実数を推定した。次いで、調査地における各樹種の平均樹冠面積と果実一個あたりのエネルギー量をかけ合わせ、カロリーベースでの結実量を推定した。同時にクマの採食痕跡をルート上で記録した。

夏は結実樹種数及び結実量が少ないため、クマはその時々に結実している果実を利用した。一方、秋はミズナラ、コナラの堅果が結実量の大半を占め、ミズナラは結実量に関わらず主要な採食物として利用された。それらの利用開始時期はその果実の結実量の最大時ではなく、直前の採食物の結実量の減少に影響されていた。また、主要な採食物が移り変わる移行期には採食品目数が増加する傾向が見られた。これらのことから、クマは、夏は少ない食物資源量に敏感に反応して採食物を選択する一方、秋は選択的にミズナラを利用することが示唆された。また、採食物を探索する過程で移動距離が増え、ランダムに行き当たる果実種を食べた結果、相対的に採食品目が増えた可能性が考えられた。さらに、2008年はより採食痕跡数が多く、標高が集中していたのに対し2009年は少なく広い標高域にばらついた。このような採食パターンの違いは結実量だけでなく結実時期・期間、特にミズナラ堅果が樹上で利用可能である期間が影響している可能性が考えられた。


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