| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-021

アリ植物の共生アリにおけるホストレースの発見とその分布の地理的モザイク性

*片岡陽介(信大・理・生物),乾陽子(大阪教大・教),市岡孝朗(京大院・人環),上田昇平(信大・理・生物),S-.Quek(Harvard Univ.), 市野隆雄(信大・理・生物)

東南アジア熱帯雨林に生育するアリ植物オオバギ属は,Decacrema亜属のアリと絶対共生関係を結んでいる.これまでの研究から,このアリグループはmtDNAを用いた分子系統解析により17系統に分けられ,幹形質によってまとめられる3つのオオバギ種群に対し,それぞれのアリ系統が大まかな寄主特異性を示すことが明らかになっている.しかし,アリ系統は主要なパートナーであるオオバギ種群と関係を保ちながら,稀にその他のオオバギ種群とも関係を持っている.しかし,このような一見ジェネラルな共生関係もよく調べてみれば,広共生性アリの系統の中に狭共生性の亜系統(ホストレース)が存在するということかもしれない.しかし,このようなより細かな視点での検証はこれまでおこなわれていない.

本研究では,生息域が広く,かつ複数のオオバギ種群と関係を結んでいる1つのアリ系統に注目し,その系統内のmtDNAハプロタイプと共生パートナーとの関係を詳細に見ることで,ホストレースの可能性を検証した.その結果,注目した系統には,他と区別できるmtDNA亜系統が存在し,他とは異なる寄主特異性を示すことが分かった.また,異なるオオバギ種群に特異性を示す2つの亜系統が同所的に存在しており,2つの亜系統間では,それぞれの寄主であるオオバギ上での行動(茎を登る能力)に有意な違いが認められた.この茎を登る能力の違いがそれぞれのオオバギ種群への特殊化と寄主特異化を促していると考えられる.これらの結果から,広共生性オオバギ共生アリ系統は,寄主特異性の異なる複数の亜系統から構成されていることが明らかになった.


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