| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-028

異なる時間スケールにおけるシカ採食圧が植食性昆虫への間接効果のプロセスに与える影響

*高木 俊, 宮下 直(東大・農・生物多様性)

大型草食獣は、植物への直接的影響だけでなく、植物を利用する他の生物にも間接的影響をもたらす。植物を介した間接効果は、植物の量と質の変化を介するプロセスに大別できる。植物の量の減少は、主に採食に伴う植物個体や株の死亡により生じ、これは継続的な採食に対する反応である。一方、植物の質の変化は、採食後の補償生長や誘導防御によるものが多く、これは採食後比較的速やかに起こる。このように、それぞれのプロセスには長期・短期スケールの採食が関係すると予想され、今現在の採食圧と過去からの採食の履歴の両方が、間接効果の大きさと方向性を決定すると考えられる。本研究は、千葉県房総半島におけるニホンジカ‐オオバウマノスズクサ‐ジャコウアゲハ系を対象に、シカ採食の時間スケールと間接効果のプロセスの関係を明らかにすることを目的とした。

1996年から2007年の糞粒密度を用いて、シカの短期・長期的密度を指標化し、9地点で得られたオオバウマノスズクサの量・質との関係を一般化線形混合モデルで解析した。その結果、林床の小型の株の量は、長期的にシカが定着している地域で少なく、質の良い葉を再展葉している株の割合は、最近シカが高密度で生息する地域で大きい傾向が見られた。ルートセンサスで観察されたジャコウアゲハの個体数は林床の小型の株密度が高い地域で多く、シカの長期的な採食がオオバウマノスズクサ密度の低下をもたらし、ジャコウアゲハの個体群サイズを縮小させる可能性が示唆された。飼育実験から餌の質の向上はジャコウアゲハの生存率の上昇、休眠率の低下をもたらすことが示唆されたが、広域パターンからは餌の質を介した影響は確認できなかった。

複数のプロセスが関わる間接効果において、複数の時間スケールに着目することは各プロセスの相対的重要性や最終的な影響を予測する上で有用と考えられる。


日本生態学会