| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-045

ヤスデ類交尾器における複雑な雌雄共進化パターン

*田辺 力(熊本大・教育),曽田貞滋(京大院・理)

交尾器の雌雄共進化パターンは、交尾器の各部位の機能に応じて異なることが考えられる。ババヤスデ属では、雌は交尾時に生殖口(精子の受け口)を体内に引っ込め、細長い雄生殖肢(交尾器)はそれを追うように雌体内へと入る。この「雌が逃げ、雄が追う」様式は、性的な軍拡競走の現れと見ることができる。この様式は機械的な無理をもたらし、それが原因と思われる傷が雌雄交尾器に見られる。系統比較法を用いた解析の結果、雌雄交尾器の相対サイズ、構造的な変化等、「雌が逃げ、雄が追う」動的な機能に関連した形質進化については、軍拡競走の影響が顕著に見られるが、精子の授受に直接関わる部位(精子授受部位)については、様相が異なることが示唆された。精子授受部位は、形状がより多様化する部位であるが、軍拡競走による多様化促進は見られない。また、傷も少なく、この面でも軍拡競走の影響は少ない。さらに、この部位は雌雄交尾器が最もタイトにかみ合う箇所でもあり、形状多様化では触覚を通じた雌の選択の影響を受けている可能性がある。このように、軍拡競走が交尾器進化に強く関与する状況であっても、ダメージが適応度低下に直結する精子授受部位においては、軍拡競走に代わり、雌の選択の影響が増すものと考えられる。


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