| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-062

藻類の適応トレードオフにみられる遺伝的変異

*笠田 実1, 吉田丈人12(1東大院・広域システム 2科学技術振興機構 さきがけ)

進化生物学の重要な概念である適応進化とは生物の生存や繁殖の向上をもたらすものであり、個体群動態とは切り離せないものである。また、個体群生態学においても、個体群内の遺伝的多様性を考えずに個体群動態の理解を深めるには限界がある。なぜなら、種内の遺伝的多様性がもたらす進化動態が個体群動態全体の振る舞いに影響を与える可能性があるからである(Yoshida et al.2003, Hairston et al. 2005)。よって、個体群内の遺伝的多様性を考慮した個体群動態を考えることが重要となってくる。

Meyer et al.(2006)は、2タイプの藻類の株組成変化を観察する方法として、対立遺伝子特異的定量PCR[Allele-specific Quantitative PCR(AsQ-PCR)]の開発に成功している。彼らはワムシと藻類の捕食―被食系において、UTEX265とUTEX396と呼ばれる藻類株の組み合わせが、系全体の個体群動態に影響を与えることをAsQ-PCRを用いて実証してみせた。Meyerらの藻類株の組み合わせの場合、藻類の遺伝的組成と系全体の個体群動態はともに安定平衡に収束する。しかし、Yoshida et al.(2007)の理論予測は、適応形質の違う他の様々な藻類株の組み合わせも、系全体のダイナミクスに興味深い影響を及ぼす可能性を示唆している。これを受けて本研究では、AsQ-PCRによって株組成頻度のわかる藻類の組み合わせにおいて、Meyerらが使用した以外の藻類株が遺伝的に異なるどのような適応形質をもっているのかを明らかにする。さらに今後の展開として、これらの藻類の組み合わせが系全体の個体群動態にどのような影響を与えるのかを観察していきたい。


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