| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-065

無融合生殖種の遺伝的多様性獲得メカニズム:ニガナ地域集団内の遺伝構造から

中川さやか*,伊藤元己(東大院・総合文化・広域システム)

無融合生殖とは無性生殖の1つで、被子植物では胚珠の中の非減数の細胞が胚を形成し胚珠は種子へと成長するという、受精を必要としない生殖様式である。無融合生殖で生じた種子は遺伝的に母親と同じであり、集団内は有性生殖に比べて遺伝的多様性が低いと予測されるが、実際には様々な分類群で遺伝的多様性があることが明らかになっている。しかし、遺伝的多様性獲得のメカニズムは明らかになっていない。キク科タンポポ連に属するニガナIxeridium dentatum ssp. dentatumは3倍体の無融合生殖種にもかかわらず、1集団において遺伝的多様性があることが酵素多型により明らかになっている(落合・伊藤 未発表データ)。そこで、本研究では、無融合生殖種の遺伝的多様性獲得のメカニズムを明らかにするために、ニガナの複数の地域集団において遺伝的多様性があるのか、そして、地域集団間で遺伝的多様性に違いがあるのかをSSRマーカーを用いて解析した。その結果、ニガナ15地域集団において計96の遺伝型が示され、すべての地域集団が複数の遺伝型から構成されること、多くの遺伝型が地域集団間で非共有であること、そして、集団内の遺伝的多様性は集団により大きく異なることが確認された。さらに、各個体の遺伝的関係を解析した結果、集団内の遺伝的多様性の違いは、遺伝的多様性獲得のメカニズムなどの違いによるものであると考えられた。メカニズムとして突然変異と有性生殖の可能性が考えられ、さらに、起源の異なる遺伝型の同所的分布の可能性も考えられた。今後、遺伝的多様性の違いはどのような条件によって実現されるかについて、ニガナの起源・起源の段階でどの程度の多様性があったかを明らかにし、さらに有効集団サイズ、突然変異率、移出入率、交配確率を考慮する必要がある。


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