| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-066

タモロコ属魚類における栄養多型の地理的変異:系統と生息環境の効果

*中島哲郎(京大生態研),熊田裕喜,小北智之(福井県立大),奥田昇(京大生態研)

湖沼性魚類の幾つかの種では、集団内に沿岸-沖合環境勾配に沿った餌資源利用パターンと関連した摂餌形態の多型現象(栄養多型)が一般的に知られている。琵琶湖水系にはタモロコ属魚類近縁2種が生息する。本湖固有種ホンモロコは沖合に生息し、プランクトン食性を示す一方、タモロコは沿岸や流入河川に生息し、ベントス食性を示す。これらは各々沖合及び底生環境に適した形態的特徴をもつ。他水系においてタモロコは様々な生息地を利用し、湖沼集団では沖合プランクトン食性を示す個体が出現することが知られている。最近のmtDNAによる分子系統解析によると、タモロコの地域集団は側系統関係にあり、琵琶湖水系のタモロコはホンモロコと近縁で、伊勢湾周辺のタモロコとは異なる系統群に属することが分かってきた。しかし、タモロコ属の系統群間・内での形態変異や生息環境の及ぼす影響については未解明な点が多い。本研究では、2008年10〜11月、2009年6〜11月に琵琶湖と本水系の流入河川、用水路、溜池、福井県三方湖、伊勢湾周辺の溜池からタモロコ属魚類を採集し、それらの外部形態を系統群間・内の局所集団間で比較した。また、湖沼集団内の摂餌形態の個体間変異と餌資源利用パターンの関係を検討するため、炭素・窒素安定同位体分析を導入した。幾何学的形態測定の結果、溜池、河川(用水路含む)、大型湖沼の3種類の生息環境に応じて明瞭な形態的差異を検出できた。従って、タモロコ属魚類の外部形態の集団間変異はそれらの生息環境の違いを強く反映するものと示唆された。また同一系統群内の溜池集団間にも顕著な形態的差異が認められ、地史年代の浅い池沼ではボトルネック効果のような要因も形態変異に影響すると示唆された。


日本生態学会