| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-090

熱帯樹木の葉の機能的性質とその系統的制約

*黒川紘子,片渕正紀(東北大学・生命科学),永益英敏(京大・博物館),饗庭正寛(北大・フィールド科学),中静透(東北大・生命科学)

植物の生活史戦略にはトレードオフが存在する。例えば成長の速い植物の葉は、高い光合成速度に関連する高い窒素濃度や低いLMA(葉重量/葉面積)を持ち、寿命が短い傾向にある。また、寿命の短い葉に対して多くの防衛投資を行う必要がないため、一般に葉のフェノール性物質(防衛物質の一種)濃度が低い。一方、成長の遅い植物の葉は逆の性質をもつ。このような種間における機能的性質のトレードオフは、系統関係に影響されるのだろうか?また、低窒素、高LMA, 高フェノール性物質は被食者や分解者に利用されにくい性質であるが、これらはある生物・非生物的環境に対して同じように進化してきたのだろうか?これらの問いに答えるため、マレーシア・サラワク州の熱帯雨林におけるいくつかの地点でランダムにサンプルした約250樹種を用い、葉の性質(フェノール性物質として総フェノール・縮合タンニン・リグニン;炭素;窒素;LMA)間の関係と、各性質の進化のしやすさを検討した。

各性質は種間で大きくばらついた。主成分分析の結果、主成分1は総フェノール濃度、LMAと正の関係、主成分2は窒素濃度と負の関係、主成分3はリグニン濃度と正の関係にあり、性質のばらつきをそれぞれ38.3%、19.1%、17.2%説明した。系統関係を考慮して同解析を行っても結果は殆ど変わらなかった。つまり、これらの性質間の関係は系統関係に影響を受けにくいと考えられた。次に、各性質が種の多様化の過程でどの程度変化しやすいかを計算した結果、総フェノール、炭素、窒素濃度は比較的形質が変化しにくい(保守的)と示唆された。これらの結果から、フェノール性物質の進化について考察する。


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