| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-116

異なる食草への適応は遺伝的分化を促進するか?−AFLPを用いたキクビアオハムシの集団遺伝解析

*甲山哲生(北大・環境), 松本和馬(森林・昆虫), 片倉晴雄(北大・理)

自然選択下にある遺伝子を特定することは、種がどのようにして生態的に異なる環境へ適応し、種分化に至るかの理解につながると考えられる。種分化の初期においては、適応に関連して自然選択を受けている遺伝座(およびそれに連鎖した遺伝子領域)は、選択的に中立な遺伝子領域に比べて顕著な分化を示すことが予想される。AFLPゲノムスキャンを用いた集団遺伝学的解析は、適応に関連した遺伝子的分化を検出する上で非常に有効なアプローチである。

キクビアオハムシ(ハムシ科)には種内に食草としてマタタビ科のサルナシを利用する集団(以下、サルナシ集団)とエゴノキ科のオオバアサガラを利用する集団(オオバアサガラ集団)が存在する。両集団は関東以西で同所的に分布するが食草の利用能力に関して差異が見られる。飼育実験およびmtDNAを用いた集団遺伝学的解析の結果から、キクビアオハムシにおける食草の異なる2集団は近年のサルナシからオオバアサガラへの食草の拡大を伴ったホストレース形成の初期段階にある可能性が示唆されている。

本研究では、同所的な1地点を含む計7地点から採集した、サルナシ集団とオオバアサガラ集団を用いてAFLPゲノム解析を行い、食草への適応に関連した遺伝的分化の検出を試みた。AFLP法によって得られた合計402の分子マーカーのそれぞれについて、集団間のFstを計算し、中立仮説から大きく逸脱した”outlier loci”の検出を行った。その結果、全体で115のoutlier lociが検出され、このうち、食草が異なるもしくは同じ複数集団間の比較から、7つのoutlier lociが食草の異なる集団間で特異的に出現したのに対し、食草の同じ集団間で特異的に出現するoutlier lociは検出されなかった。


日本生態学会