| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-118

生態系の融合時に起こる現象の非対称性について

*吉田勝彦(国立環境研・生物),時田恵一郎(大阪大・サイバー)

大陸移動などの影響で地理的な障壁が消滅し、独立に進化した生態系が融合するイベントが過去の地球の歴史の中で何度も起こってきたが、その際、多様性の変化や生物の移動方向などに非対称性が見られる場合がある。海洋生態系では、一方向に流れる海流の影響が考えられているが、それ以外の場合、なぜ非対称性が生じるのかははっきりしていない。これまで、融合する二つの生態系間での環境の違い、被った環境変動の規模の違い、他の生態系から隔離されていた期間の違いなどが要因として挙げられているが、果たしてそれらが非対称性の原因になりうるのか、また、それぞれの要因がどのように影響するのかについてははっきりしていない。そこで本研究では、特に入射エネルギー量の違いに注目し、入射エネルギー量が大きい条件で進化した生態系と小さい条件で進化した生態系を融合させるコンピュータシミュレーションを行い、融合時に起きる現象を解析した。

入射エネルギー量が小さい条件で進化した生態系は、動物の種数が少なく、食物連鎖長が短く、相互作用が緊密でないという特徴を持っていた。このような生態系を入射エネルギーが大きい条件で進化した生態系と融合させると、入射エネルギー量の差が小さい場合はそれぞれの生態系での絶滅率にほとんど違いはなかったが、入射エネルギー量の差が倍以上になると、入射エネルギー量が大きい生態系の方が絶滅率が高くなった。

融合時の植物種の移動方向は入射エネルギー量の差に敏感に反応し、その差が1割程度であっても、入射エネルギー量が大きい方から小さい方への移動が卓越した。動物種については、入射エネルギー量の差が倍以上になると移動方向に非対称性が生じるが、この場合の移動方向は、植物種とは逆に、小さい方から大きい方への移動が卓越することが明らかとなった。


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