| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-122

多次元尺度法と個体ベースモデルによるインフルエンザ抗原進化の予測

佐々木顕(総研大・葉山, JSTさきがけ)

インフルエンザA香港型ヘマグルチニンの抗原決定座位(エピトープ)は,アミノ酸の変わりえる可変サイトと,アミノ酸が変わると機能を失活する非可変サイトに分けられ,しかも可変サイトの場所も時間的に変化することが実験的に知られている.これに基づく抗原エピトープ配列進化モデルを,講演者がこれまで開発してきた宿主免疫系とウイルスの共進化動態に乗せて,次年度の抗原型を予測するモデルの構築を行う.

ヘマグルチニンの抗原決定アミノ酸座位数は50〜100にものぼるため,エピトープの可変サイトに限定しても,進化可能なアミノ酸配列は膨大な数にのぼり,これがインフルエンザウイルスの進化予測を著しく困難にする.これに対して,多変量解析における多次元尺度法を利用して,ウイルス抗原進化のトレンドを低次元空間上の軌道の進路予測の形式に落とし,翌年の流行型を高い確率で予測しようとする試みが始まっている.本講演では,このバイオインフォーマティックス分野で始まった野心的な研究動向を進化生物学の共進化理論・集団遺伝学理論からサポートする研究成果を紹介する.

過去30年間のA香港型ヘマグルチニンの配列進化データと,講演者らが開発したウイルス抗原進化の個体ベースモデルのシミレーションデータを用いて,多次元尺度法による進化予測モデルを検討する.ここまでに得られた結果によると.ウイルスエピトープと宿主免疫系の共進化動態は,その抗原配列空間と宿主免疫状態の極めて高い次元性にも関わらず,5〜10年までの部分的な進化トレンドを2〜3次元の主座標空間で抽出することが可能である.しかし一方で,それ以上の期間の予想や,進化軌道の「転回点」付近の挙動を予測するのは難しく,実際のヘマグルチニンの配列進化の低次元性を再現できない.最後に可変サイトの位置の時間的変動が低次元性に貢献する可能性について述べる.


日本生態学会