| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-174

湿地化した休耕田に成立する植物群落の特異性

*高野瀬洋一郎(新潟大・超域研究機構),石田真也(新潟大院・自然科学),紙谷智彦(新潟大院・自然科学)

水田環境を生育場としてきた湿生植物は、近年の乾田化や除草剤の多用によって、減少や絶滅の危機に瀕している。これら湿生植物の回復を目的に、日本有数の水田地帯である越後平野の一部の休耕田において、操作実験的な湛水管理と土壌撹乱を行っている。本研究では、1)3年間にわたって湿地化した休耕田と周囲の水田環境に出現する植物種組成の違いと、2)植生成立に影響する要因を明らかにし、湿地化した休耕田が新たな景観要素として多様な湿生植物群落の形成に貢献し得るかを検討した。

新潟市丸潟新田の湿地化した休耕田では、例年5月から断続的な湛水を始め、直前には半面にロータリー耕と代かき処理を行っている。湿地化した休耕田と周囲の慣行田、湛水管理を行っていない休耕田、調整水田、ハス田に1m×1mの植生枠を最低20個設け、出現した維管束植物の種名を記録した。各調査地には自記水位計を設置し、各植生枠の水深を測定した。また、周囲の水田環境では耕起や除草剤散布の有無など管理履歴の聞き取りを行った。

植生調査で出現した維管束植物は94種であった。各調査地の総出現種数に占める湿生植物の割合は、湿地化2年目以降の休耕田やハス田で極めて高く、湛水期間の長さが起因していると示唆された。各植物種の出現頻度を因子とした調査地の序列化の結果、湿地化した休耕田における植物種組成の年間の相違は、調査地間での相違に比べて大きく、湿地化2年目以降の湿生多年草の増加と中生一年草の消失を反映した。これらに加え、湿地化した休耕田の土壌撹乱区にのみ絶滅危惧種ミズアオイが出現しており、時空間的に多様な湿生植物群落の形成に貢献していると結論づけた。


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