| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-184

草地と林地における環境指標としてのチョウとオサムシ相

山下英恵*,桐谷圭治,富樫一巳

チョウは植食性で開花草本種数と高い相関が見られるため,環境指標として広く用いられている。その活動は天候に左右され,飛翔力も大きいため荒い目の環境指標である。チョウとは対照的に,よりミクロな環境指標としては,主に肉食性で飛翔能力を欠いた歩行性のオサムシが使われている。チョウとオサムシの特性を生かしたより総合的な環境指標が必要とされるため調査を行った。

調査地は,伊東市にある大室山の草地および近隣の林地を選んだ。採集したチョウを森林性,林縁,農地を含むオープンランド性,草地性に分け,草地と林地のチョウ相の比較を行った。総数893個体,種数は47種が記録された。大室山草地では,27種,林地では41種,そのうち両地区共通種は22種であった。オサムシは,草地,雑木林,休耕田の11か所にトラップを設置して調査を行った。採集された18種のうち,7種は草地,4種は森林,1種は休耕田の特異種であった。翅二型は草地に特異的なセアカオサムシ他2種にのみ見られた。草地以外の生息場所では短翅または長翅の単型種のみがみられた。

また,管理の異なる3つの草地(1:草刈りのみ,2:草刈りと火入れ,3:火入れのみ)において,オサムシの種類が異なっていた。草地のみに生息していたセアカオサムシは,2において殆どが捕獲された。そのため,オサムシは植生が同じでも管理の違いに敏感に反応することが分かった。

以上のことから,チョウは植生の違いによる環境指標として有効であるが,オサムシは同じ植生でもさらに管理の違いに反応するため,よりミクロな環境指標として有効であることが示された。総合的な環境指標を構築するためには,種数や個体数のみでなく,翅型や食性などの生活史特性も考慮する必要がある。


日本生態学会