| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S03-3

2種大腸菌による栄養共生への迅速な適応とその遺伝子発現変化

○細田一史・四方哲也 (阪大・情報科学)

人間は初めての環境変化にでも、それに合わせて行動を変化するだろう。常にとはいわないまでも、多くの場合は適応的だろう。例えば、災害により皆が苦しい状況では、普段協力しない人でも周りと協力するかもしれない。直接利益になると知らなくても、実際は利益になる。学習・評判・信仰・本能など色々あるが、結局は環境中に存在するなんらかの合図(単一ではなく複数の組み合わせかもしれない)に対する応答、つまり広い意味での表現型可塑性であり、柔軟に適応できる者は自然選択されるだろう。さて、その根底にある機構はどうなっているのか?合図に伴う生体内の神経伝達や遺伝子発現変化、その他生化学反応まで還元することができるだろう。しかし、人間などではその根底と行動変化との間はあまりに遠く、実験科学としては扱いにくい。

初めての環境変化に対する適応は細菌ですら起こりえる (Yamada 2008)。細菌は最も単純な生物であり、私達が想像するような学習・評判・信仰などはもちろん無い。本発表では、モデル細菌である大腸菌を用いた実験結果を元に、表現型可塑性による初めての環境変化への適応機構について議論したい。特に、協力的になるという表現型変化に注目する。なお実験結果とは、2種の異なる大腸菌栄養要求性株(共に同じ野生株の一遺伝子欠損株)を作成して混合すると、協力的になる表現型変化が片方の株に起こり、共に増殖して栄養共生が成立したというものである。この際の全遺伝子発現量変化も測定した。これらの実験結果は鈴木真吾、森光太郎、柏木明子、城口泰典、山内義教、小野直亮、四方哲也ら(敬称略)との共著である。高等生物と細菌は全然違う。しかし同じ生物なので、いちアプローチとして様々な分野の方々の思考の肥やしになれば幸いである。


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