| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S11-7

小笠原諸島における送紛系攪乱と外来種対策

安部哲人(森林総研九州支所) 総合討論に向けて

小笠原諸島における送紛系攪乱と外来種対策

安部哲人(森林総研九州)

小笠原諸島で外来種によって引き起こされている問題のひとつに送粉系の撹乱がある.小笠原では外来種であるセイヨウミツバチが養蜂用に持ち込まれた父島・母島から兄島,弟島など父島周辺の属島でも確認され,その分布域を広げていることが明らかになっている.一方で父島・母島では固有のハナバチ類をはじめとする送粉昆虫相が衰退しており,送粉者が入れ替わっていることが分かっている.在来送粉者相の衰退要因は,これまでの研究により外来トカゲであるグリーンアノールによる捕食が主要因であることが明らかになってきた.また,この送粉系撹乱の影響で属島では小笠原の在来植物種への訪花頻度が高いのに対して,父島・母島ではセイヨウミツバチが在来植物よりも外来植物に高頻度で訪花している.セイヨウミツバチは在来植物にも訪花しているものの,一部の種では柱頭に全く花粉が運ばれておらず,送粉者として機能していなかった.こうした現象は新たな生育地に侵入した外来種の定着にとって障壁の一つとなるはずの送粉者不足がセイヨウミツバチにより解消されることとなり,外来種同士の相利共生系の作用によって生物学的侵入が促進されていると考えられる.その一方で,在来送粉者相が衰退した父島・母島では多くの在来植物もセイヨウミツバチに送粉を依存している.このことから,小笠原の送粉系撹乱対策としては,セイヨウミツバチよりもグリーンアノールの根絶を優先させるべきであり,セイヨウミツバチの根絶は在来の送粉者相が回復してから行うのが妥当であると考えられる.また,個体数が極端に少ない絶滅危惧植物では複数の要因が作用して個体群が衰退する「絶滅の渦」と呼ばれる状態にあり,送粉系撹乱もそうした要因のひとつになっていると考えられる.したがって,こうした絶滅危惧植物の保全対策も平行して行う必要がある.


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