| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S17-3

河川と農地の再生技術

河口洋一(徳島大・院・工)

佐渡島は島の中央に平野(国仲平野)が広がり、その北西側は島で最も高い金北山(1172m)のある大佐渡山地、そして南東側には小佐渡丘陵がある。佐渡島は国内で最後までトキが生息していた場所で、当時の観察例の多くは小佐渡丘陵であった。小佐渡丘陵の大部分は森林に覆われ、人々は主に沢沿いの土地を農地(主に水田)として利用し、トキがまだ見られた頃にはドジョウやカエルといった小動物を水田で採餌する姿が確認されている。

しかしながら、その当時の河川・農地環境と現在は大きく異なっている。佐渡島の川には、利水目的で川の上流から下流まで数多くの農業用取水堰が設置され、魚類の上下流への移動が妨げられている。そして治水面では効率よく排水する河川整備が徹底されたため、コンクリート二面張り・三面張りの区間も多く見られ、魚類の生息環境の劣化は著しい。さらに、水田では圃場整備が進められ、用・排水分離、暗渠による排水、土水路からコンクリート水路への改変に伴い、水田は周辺環境とのつながりを無くし、水田に依存する生物は減少している。このような人為的改変により、河川や農地は人にとって利用しやすくなった反面、水田を利用する生物の減少や生物多様性の低下が引き起こされ、トキ野生復帰において餌不足が大きな課題となっている。

今回の発表では、トキの採餌環境整備として河川を担当する行政機関(新潟県佐渡地域振興局)そして農地を担当する行政機関(農林水産省北陸農政局)、さらに農家やNPOと協働して取り組んだ河川と農地の再生技術について、1)農業用取水堰の落差改良、2)水路と河川の落差改良、3)水田魚道の設置といったエコロジカルネットワークの再生、そして4)水田における冬期湛水や水田内土水路(江)の設置、といった河川と農地の再生技術の効果について、トキの餌として重要な餌生物に注目しながら発表したいと考えている。


日本生態学会