| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S17-5

佐渡において放鳥されたトキの餌メニューとハビタット選択

永田尚志(新潟大・超域)

日本のトキは佐渡島に残っていた最後の5羽が1981年に捕獲され、野生個体群は消滅した。野外絶滅したトキ(Nipponia nippon)の野生復帰を目指して、2008年9月25日に10羽(雌雄各5羽)が、2009年9月末に20羽(♂8,♀12)が、佐渡島で放鳥された。1次放鳥10羽のうち7羽の生存が確認されていて、2次放鳥の19羽(1羽回収)を含めた36羽が野生復帰し、そのうち31羽が佐渡に生息している(2009年12月末現在)。1次放鳥直後から約1年半にわたってトキの行動・生態を追跡し、1日の行動配分(タイムバジェット)、採餌効率(餌の飲み込み速度)、警戒行動などのデータが蓄積してきている。

佐渡島におけるトキの採餌ハビタット、餌メニューの1年間の行動の変化を中心に紹介する。観察で確認されたトキの主な餌メニューは、水田および畦などに生息しているミミズ、ドジョウ、カエル、昆虫類、甲殻類、貝類であり、ドジョウとミミズへの依存度が高かった。稲刈り後の10月から田植え直後の6月までは水田で採餌を行いドジョウを採餌できるが、イネの丈が伸びる6月後半から9月までは水田を利用しなくなり草丈の低い休耕田や畦、農道脇でミミズや昆虫類を利用するようになる。

また、1次放鳥の10羽のうち6羽、2次放鳥20羽のうち9羽には衛星追跡用のGPS発信機が装着されたが、1次放鳥の5個体(♂4,♀1)と2次放鳥の5個体(♀5)からのみ、3-10日ごとに毎日1〜4点の位置データが順調に送られてきて位置データが蓄積している。これらのGPS位置データを用いて、主に1次放鳥個体の利用ハビタットの解析結果から、佐渡におけるトキの個体群の再生にとって必要な環境整備について提言する予定である。


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