| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T07-2

ワーカーポリシングの新たな説明:最適資源配分戦略の観点から

*大槻 久(JST, 東工大・社会理工), 辻 和希(琉球大・農)

社会性昆虫コロニーにおける協力行動は、従来個体間の高い血縁度に起因するものだと理解されてきたが、近年、警察行動(ポリシング)が大きな役割を果たしている事が明らかになってきた。ワーカーポリシングとは、ワーカーが自ら雄卵を産卵できる種において、ワーカー同士が相互に監視し互いの産卵を抑止する一連の行動を指す。女王一回交尾の種において、ワーカーは他ワーカーが産んだ雄(=甥)に対してr=0.375の血縁度を持ち、これは女王由来の雄(=兄弟)に対する血縁度r=0.25よりも高い。しかしこの血縁度の予測に反して、女王一回交尾の種でもワーカーポリシングの存在は報告されており、その適応的意義は未解明のままだった。

本研究ではワーカーポリシングの新たな説明として、時間依存の最適資源配分戦略に注目した。Oster-Wilsonの古典的モデルを拡張し、資源配分コンフリクトに加えて個体間の雄生産権を巡るコンフリクト、および女王とワーカー間の性比コンフリクトを組み込んだ動的ゲームモデルを構築し解析した。

得られた均衡解には二つの異なるステージが出現した。前半の「成長ステージ」では女王は雌卵のみを産み、ワーカーは自己の持つ全資源を投資して雌卵を新ワーカーに育てるパターンが見られた。この時期に人工的にワーカー由来卵がコロニーに導入された場合、強いワーカーポリシングが起こる事をモデルは予測した。これは、繁殖虫生産で得られる直近の包括適応度よりも、新ワーカーへ投資しそのワーカーが将来働く事で間接的に得られる包括適応度のほうが高いからである。後半の「繁殖ステージ」では女王は雌卵を産み、ワーカーは一部の資源を自己の雄卵生産に投資するパターンが見られ、モデルはワーカーポリシングの強度の低下を予測した。


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