| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T07-3

花成制御の数理モデル:遺伝子発現制御と貯蔵資源動態

佐竹 暁子(北大, JSTさきがけ)

一年草と多年草の適応的意義については、古くから最適制御理論などの数理モデルによって研究されてきた。しかしその時代には、開花時期を制御する分子機構についての研究は未踏分野であった。近年、モデル植物を対象に分子遺伝学的研究が急速に進展し、開花時期が制御される仕組みが分子レベルで説明できるようになってきた。その結果、一回繁殖と多回繁殖を調節する要因も分子レベルで明らかになりつつある。

本研究では、このような分子遺伝学と数理生物学からの知見を統合した数理モデルを開発し、シロイヌナズナ近縁種を対象に多様な開花戦略を調節する分子機構を理論的に明らかにした。モデルでは、春化応答において中心的役割を果たす花成抑制遺伝子FLOWERING LOCUS C (FLC)の発現制御ダイナミクスと、光合成による炭水化物資源の蓄積と繁殖への配分の両者を考慮した。花成抑制遺伝子であるFLCの発現が、長期低温によって抑制されることで、花成誘導因子であるFLOWERING LOCUS T(FT)の発現が促され、花芽形成が始まる。花芽形成が始まると、貯蔵資源の配分によって繁殖器官が生産され、貯蔵資源を使い切った時点で植物は枯死すると仮定する。

FLCの発現制御の調節によって4通りの開花様式が予測された。1) FLCの発現が一度抑制されると回復しない場合には、一年草; 2)発現が回復せずかつ緩やかに抑制される場合には、一回繁殖型多年草; 3)発現が回復可能な場合には、毎年繁殖型多年草; 4)発現が回復可能かつ緩やかに抑制される場合には、間欠的繁殖型多年草の挙動を示した。生涯繁殖成功度に基づき進化的に有利な開花様式を推定すると、死亡率の増加に伴い間欠的繁殖型多年草、毎年繁殖型多年草、一年草へ連続的に遷移した。これらの結果は、FLC発現制御の相違が、開花様式の多様性を生じる可能性を示唆する。


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