| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T18-1

アジアにおけるヒラタクワガタの多様性:DNAおよび形態からのアプローチ

所諭史(茨城大院・教育)・五箇公一(環境研)・立田晴記(琉球大・農)・山根爽一(茨城大・教育)

天然資源の輸入大国である日本は、様々な外来生物が資材に紛れて侵入してくるとともに、意図的に外来生物を輸入するケースも多々存在する。特に、外国産クワガタムシおよびカブトムシなどの甲虫類は近年の飼育ブームの高まりによって、急速に輸入量が増えている。クワガタムシ科のヒラタクワガタDorcus titanusは、飼育方法が比較的簡単であること、値段が安価であること、インターネットの普及等により容易に購入することができるため、毎年大量の個体が輸入されている。このヒラタクワガタは、日本列島を含む東アジアから東南アジアにかけて広く分布しており、地域によって特にオス成虫の大顎形態変異が著しく、多数の地域亜種を包含する。しかし、それらの地域亜種間、あるいはより細分化された地域個体群間の遺伝的分化の程度に関しては定量的データが不足している。

本研究では、ヒラタクワガタにおける保全単位設定のための基礎情報を得ることを目的として、遺伝的および形態的多様性の定量的評価を試みた。遺伝的多様性を評価するため、mtDNA におけるCO1およびCO2領域の塩基配列を解析し、得られた塩基配列情報を基に系統解析を行った。次に、形態的多様性を評価するため、各地域におけるオスの大顎を用いて楕円フーリエ解析を行い、得られた157の係数を基に多変量解析を行った。これらの結果から、ヒラタクワガタはアジアの地史について有意義な情報を持っていること、そして個々の地域で特徴的な大顎形状を持っていることが示された。しかし、いくつかの地域においては、複数の大顎形状を持っているにも関わらず、mtDNAにおいては一つのクレードを形成する地域も存在しており、mtDNAのみでは認識できない遺伝的多様性が存在していることが示された。


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