| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T25-4

陸域生態系モデルの今後の発展の方向性と応用の可能性

伊勢武史(海洋研究開発機構)

近年進歩の著しい陸域生態系モデルの世界的なトレンドを概観し、これからの発展の方向性を考える。もっとも基礎的な陸域生態系モデルは、いわゆるBig leafモデルである。地表面の均質性を仮定し、環境条件に応じて単位面積あたりの光合成量・生産量・バイオマスなどを推定する、まるで地表を一枚の大きな葉が覆っているかのような仮定に基づいたモデルである。このモデルは基本的な物質循環(炭素や水など)と環境変化への応答を再現することができるが、不均質性やタイムラグの表現に弱い。たとえば、環境変化によって起こる種の遷移の過渡的な変化を再現するには、SEIB-DGCMなどの個体ベースモデルが有利である。ところが、個体ベースモデルはその複雑さゆえに全球をカバーしきれないというスケールの問題が生じる。そこで、いま脚光を浴びているのは、個体をサイズ・年齢ごとに階層化し個体群の挙動を統計的に表現する近似モデルである。空間スケールの問題を解消し飛躍的な高速化が実現するため、全球レベルでのシミュレーション研究ではこの手法を用いるのが、次世代の主流になりつつある。

では、このような陸域生態系モデルを利用して、具体的にどのような研究ができるだろうか。第一に挙げられるのは、本シンポジウムで登場したような、大気・海洋大循環モデルや大気化学モデルと結合された地球システムモデルのコンポーネントのひとつとして気候変動との相互作用を分析することである。このような研究は気候変動に関する研究の中核をなすものであるが、地球システムモデルは非常に複雑で計算力の要求も高い。そこで、簡略気候モデルを利用することでコンピュータ関連のハードルが大幅に下がり、生態学者が気候モデルを用いた研究を行う環境が現実に整いつつある。ここでは、現在開発中の簡略気候モデルを用いた古気候実験のデザインと期待される結果について紹介する。


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