| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T31-2

生殖システムからみた性配分問題:単為生殖の存在が性配分戦略に与える影響

川津一隆(京大院・農・昆虫生態)

ESSな性配分戦略を解析するための理論として挙げられるのが均等投資の原理であり,その骨子は,1)父母の遺伝子は均等に子に伝わるためオス・メスの繁殖成功は等しくなる→2)息子・娘の繁殖成功は性比の関数となるため性配分戦略には頻度依存選択が働く,という二段階の論理に要約できる.これらの論理には一見矛盾がないように思われるが,近親交配を行う場合には遺伝的寄与の性的対称性が破られる可能性があり状況が異なってくる.そして,そのような中でも極端な例として挙げられるのが,メスが単為生殖(オスの遺伝子を用いない繁殖)を行う生物であろう.

集団中で単為生殖が行われる場合,遺伝的寄与はメスの方が高くなるため1)からはメス偏向の性比が予測される.一方で,単為生殖は産まれる子の性により3種類(産雄性,両性,産雌性)に分類され,それらの間で集団の性比に与える影響は変化するため2)が与える予測は異なる.そこで,私は単為生殖の存在を組み込んだESSモデルを作成し,単為生殖型が異なる場合の性配分の解析を行った.その結果,産雄性で強いメス偏向性比,両性で中程度のメス偏向性比,産雌性では1:1性比がESS性配分となることが分かった.

本講演では以上の結果に基づき,単為生殖の存在および,単為生殖型の違いが有性生殖における性配分戦略に与える影響を明らかにし,均等投資の原理における二段階の論理がどのような関係にあるかを考察する.ここで,産雄性単為生殖は半数倍数性を持つ膜翅目昆虫など,産雌性についてはナナフシやシロアリなど幅広い昆虫類で観察され,また,両生単為生殖については自殖を行う植物が挙げられるだろう.そのため,産雌性単為生殖を行う種が系統内に散在する下等シロアリ類を用いて私が行った種間比較の結果を中心にして,異なる単為生殖型が実際の生物のとる性配分戦略にどのような影響を与えているのかについても言及する.


日本生態学会