| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) C1-06

天敵昆虫による生態系サービスの定量化: ダイズ圃場と周辺環境における卵寄生蜂の害虫抑制効果

*田渕研(東北農研),滝久智(森林総研),水谷信夫(中央農研),長坂幸吉(中央農研),守屋成一(中央農研)

天敵昆虫は農薬の代替手段として古くから注目されてきたが、技術的・労力的な問題から圃場を越えた広域スケールでの利用が考慮されることはまれであった。しかし非農耕地と農耕地との間を移動する天敵昆虫による害虫抑制サービス利用を積極的に利用するためには、非農耕地の発生源における発生量の把握と害虫抑制効果の定量化が必要である。我々はダイズ害虫ホソヘリカメムシの卵寄生蜂カメムシタマゴトビコバチ(以下、トビコバチ)を用いて、発生源(林縁環境)とダイズ圃場において発生量を調査し、寄主卵への寄生率との関係を検討した。調査は2009年8、9月につくば市近郊の林縁11カ所とダイズ圃場17カ所で行った。トビコバチを誘引するホソヘリカメムシ集合フェロモンを誘引源とした粘着板トラップからトビコバチの発生量を調査した。同時に♀成虫の存否確認のために粘着板のないトラップを設置し、寄主カメムシのおとり卵20個を貼り付けた濾紙をクリップで固定した。トラップとおとり卵は1週間後に回収し、卵は25℃14L10D条件で飼育して寄生の有無を確認した。

林縁ではダイズ圃場の27.9倍(8月: 103.5 ♀/トラップ)、3.7倍(9月: 14.5 ♀/トラップ)のトビコバチ♀が誘殺された。8月には林縁で22.7%、ダイズ圃場で4.1%の卵が寄生されたが、誘殺数の少なかった9月では全地点で寄生が確認されなかった。トラップの誘殺数と寄生率には正の関係があったが、ばらつきが非常に大きかった。以上の結果からトラップへのトビコバチ誘殺数は寄生率に影響していることは確認されたが、誘殺数からの寄生率の予測は精度が悪いことが示唆された。効率的な害虫抑制サービスの利用のためには、寄生率のばらつきを左右する要因について検討する必要があると考えられた。


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