| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-13

表面採食性海鳥の海上分布に影響する要因

*倉沢康大,小埜恒夫(北水研),板橋豊(北大院水産),山本麻紀(長岡技大),綿貫豊(北大院水産)

海鳥は巧みに海洋資源を利用する。その海上分布のメカニズムの解明には、(1) 物理海洋環境から一次生産性、餌生物、海鳥の分布に至るプロセス、(2) その海域での餌種、の2点を明らかにしなければならない。日本周辺で繁殖するオオミズナギドリは、育雛期には、北海道南東部太平洋(道東海域)に採食のために飛来するが、どういった水塊で何を食べているのか充分にわかっていない。

本種は一度繁殖地を離れてから再び戻るまでの期間が長く、餌を消化して胃内に脂肪(胃油)を蓄積するため、残滓の分析やDNA分析では餌構成を完全に知る事は難しい。そこで、餌種推定のために、胃油の脂肪酸組成を分析して、海産動物の脂肪酸組成と比較した。また、海鳥の海上分布は調査船を用いた目視調査、餌生物の分布は魚群探知機による音響調査、物理海洋環境と一次生産性は海洋観測と衛星画像解析によってそれぞれ明らかにし、本種が集中する水塊とその特徴を調べた。

胃油の脂肪酸組成は、サンマやイワシ類(カタクチイワシ、マイワシ)、それらの中間的な値を示し、浮魚類に依存していると考えられた。着水個体は沿岸の高塩分の水塊で多く、この水塊では魚類密度も高かった。道東海域では、暖流系水の影響がある高塩分の水塊にカタクチイワシが多いため、それを採食する本種も多かったと考えられる。飛翔個体は沖合の親潮域内で高温の水塊で多く、繁殖地への往復、もしくは低温の親潮域と暖流系水との前線付近に探索努力を集中させていた事を示唆する。一方、ファインスケール(1-20km)では本種の密度と魚類密度には相関がなく、魚類密度や本種の密度とクロロフィルa濃度には一定の関係は見られなかった。以上から、オオミズナギドリは浮魚類に依存し、それらが多いと予測される水塊を知っているが、その中では全ての魚群を的確に発見している訳ではない事が示された。


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