| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) F1-02

釧路湿原のタンチョウ新規営巣地はどのような植生か

*正富宏之(NPO・タン保研), 正富欣之(北大院・農)

北海道のタンチョウGrus japonensis は約1300羽を数え,現在も増加傾向にあり,繁殖番い数も380番いほどに達したと思われる。繁殖番いは一定地域を排他的なわばりとして占有する傾向を示すから,増加番いは一般に新たな繁殖場所を選ぶ必要がある。そのときの選択条件を知ることは,個体群成長にかかわる環境収容力や,種維持のための環境保全上からも重要な知見となる。そこで環境要素の一つである植生との関連をみるため,釧路湿原を対象に,最近10年間(2000-2009)のGISデータ化した営巣地点を2005年環境省作成の植生図に重ねて解析した。その際,当該年以前3年間の半径約700m営巣圏円内に含まれない巣(ただし地形条件等も考慮)を,便宜的に各年の新規営巣とみなした。

使用植生図は,植物群落のほか開水域など含む24環境タイプを含み,地域としては湿原への流入河川中・上流域等を除く,いわば湿原中心域である。釧路湿原地域のタンチョウ繁殖番い数は10年間で約1.7倍に増えたが,植生図範囲内では約1.3倍に留まり,新規営巣地増は植生図範囲外で著しい。それでも,植生図範囲内で新規とみなした巣が年平均5.1(範囲3-9)ヶ所認められた。そこで,それらの営巣地点植生を,試みに2004年および2009年における新規以外のそれと較べたが,異なる傾向はみられなかった。さらに,営巣地点を中心に周辺約10ha円内の環境タイプの構成・面積をみても,新規営巣地点周辺とそれ以外との間で差異はなかった。

したがって,タンチョウの営巣地は基本的にヨシ群落かヨシ・ハンノキ群落が選択され,植生図で示された他の植生タイプとの明確な結びつきは認められなかった。このことから,小スケールの営巣地点選択において,二次元的表現の植生図群落よりも,各営巣地点における空間構造,地理的条件,採餌条件等が大きく関わることを想定すべきである。


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