| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) G2-06

生息地の形状が決める「有効分散率」:連続分布する生物の群集動態を近似するためのパッチモデル

若野友一郎, 池田幸太(明治大), *三木健(台湾大), 三村昌泰(明治大)

空間構造は群集動態に大きな影響を与える.連続的な空間での群集動態は反応拡散系を用いて定量的に記述できるが,生態学の分野においてはもう一つの定式化であるパッチモデル(常微分方程式系)を用いた定性的理論が発展してきた.パッチモデルでは空間的に不連続な生息地(パッチ)を生物の分散でつなぎ,各パッチ内での空間的不均一性を無視した定式化をおこなう.パッチモデルに基づく研究は,パッチ間での生物の「分散率」の大小によって種の共存の可否や共存種数が決まると予測している.しかし,現実には生息地は連続的につながり, 生物はパッチ内であっても不均一に分布している.また,分散率というパラメータを実験的に制御するのは困難である.このため,パッチモデルの予測を定量的に検証することは難しい.

そこで我々は,空間的に連続な生息地での群集動態を定量的に記述できるように,パッチモデルの枠組みの修正を試みた.具体的には,大きなパッチ領域二つが回廊(corridor)によって連結された生息地を想定した.この生息地において,反応拡散系を用いてシミュレートした群集動態を定量的に近似できるような近似パッチモデルの導出をおこなった.我々は,従来のパッチモデルに現れる分散率というパラメータを,パッチ領域の面積と回廊の形状(幅と長さ)の関数である「有効分散率」で置き換えることによって,反応拡散系モデルの定量的近似に成功した.我々の定式化は,群集動態において生息地の形状が大きな役割を持っていることを示している.さらに,実験環境においては,生息地の形状を変えることにより有効分散率を定量的に制御できることも示している.このことから我々の近似パッチモデルは,空間構造と種の共存に関する理論研究と実証研究のギャップを埋めることに貢献できると期待される.


日本生態学会