| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) H1-13

イトヨにおける新規環境への急速適応

安達竜也(東北大・生命), 森誠一(岐阜経済大), 牧野渡(東北大・生命), 河田雅圭(東北大・生命), *北野潤(東北大・生命, JSTさきがけ)

野外移植実験は、環境への適応機構を解明する為の有力な実験手法の1つである。外来種は、意図せずに行なわれた野外移植実験ともいえ、皮肉にも、新規環境への急速適応機構を理解する上できわめて重要な題材になりうる。

トゲウオ科魚類のイトヨは、200万年以内に急速に適応放散を遂げた魚であり、進化生態学のモデル生物として位置づけられている。さらに近年、新たな水域に人為的に移植された集団も複数確認されている。そこで我々は、日本国内の複数のカルデラ湖において、カルデラ環境へのイトヨの適応過程を研究している。カルデラ湖は火山活動で形成された湖であり、多くの場合、在来魚は生息していなかった。その後、水産有用魚が人為的に放流されることによって、人為的生態系が確立されてきた。本州北部の十和田湖には、ヒメマスの放流に混入していたと考えられるイトヨが定着しており、湖内生態系の構成要員となっている。

我々はまず遺伝解析と過去の文献調査に基づいて、青森県奥入瀬川水系の淡水型イトヨが祖先集団であることを確認した。次に、過去の文献データとイトヨサンプルの形態計測データを収集することによって、移植直後にイトヨの体サイズが急激に増加し、ついで急速に減少し、現在の体サイズは比較的安定していることを発見した。また、放流直後には、祖先集団と類似した餌資源、つまりベントス(ヨコエビ、ユスリカなど)を主に利用していたが、1990年からはプランクトン、さらに近年には陸棲昆虫を食するように変化していた。祖先集団も十和田湖集団も遺伝的多様性は極めて低く、急激な表現型の変化が起こったのは可塑的な変化なのかもしれない。今後は、全ゲノム解析、摂餌形質と食性との相関の解析などを行ない、この過程で生じた適応変化の全貌を解明したい。


日本生態学会