| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-033

フタバガキ科10種個体群の遺伝構造と個体空間分布の関係

*原田剛,名波哲,伊東明,山倉拓夫,松山周平 (大阪市大・理),Bibian Michael Diway,Slyvester Tan,Lucy Chong (Sarawak Forestry Corporation)

中立分子マーカーを使った研究により、様々な熱帯樹木個体群の空間遺伝構造が調べられ、さらに、その空間遺伝構造を形成するメカニズムを明らかにしようとする試みが行なわれている。空間遺伝構造を形成する要因として、種子散布、花粉散布、遺伝的浮動、自然選択などが挙げられるが、特に局所的スケールでの空間遺伝構造の形成においては、種子散布と花粉散布の影響が大きい。実際、種子散布距離が短いと空間遺伝構造が強くなることが多くの研究で示されており、また、研究例は少ないものの、花粉散布距離が短いと空間遺伝構造が強くなることも指摘されている。今回の研究では、ボルネオ島の熱帯雨林内に設置された52ha調査区に分布するフタバガキ科10種の個体群の空間遺伝構造の強さと、成木の空間分布、種子散布距離および送粉距離の関係を調べ、フタバガキ科の空間遺伝構造形成のメカニズムを考察した。

空間遺伝構造の強さを目的変数とし、成木の密度、成木の集中斑の大きさ、果実の重さおよび送粉者の違いを説明変数として重回帰分析を行い、赤池情報量基準(AIC)により最も当てはまりのよいモデルを探した。その結果、成木の集中斑の大きさと送粉者の違いを説明変数としたモデルが最も当てはまりがよいことが分かった。これらの結果から、成木の集中斑が小さく、小型甲虫類に送粉される樹種の空間遺伝構造は強く、反対に、成木集中斑が大きく、オオミツバチに送粉される樹種の遺伝構造は弱いことが分かった。このような結果が得られた原因として、成木の集中斑が小さいほど遺伝的浮動が起きやすいことと、小型甲虫類の方がオオミツバチよりも送粉距離が短いことが考えられた。


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