| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-080

直接観察法を用いた冷温帯落葉樹の個葉における気孔開度分布様式と光合成速度の日変化との関係

*鎌倉真依(奈良女大・共生センター),小杉緑子(京大・農),牧田直樹(京大・農),村松加奈子(奈良女大・共生センター)

一般に、個葉光合成速度や気孔開度の推定に用いられるモデルは、1 mm2あたり数十~数百個存在する気孔が葉の中で常に均一に開閉するという仮定の上に成り立っている。しかし、近年の研究から、熱帯雨林のフタバガキ科樹種では、光合成の日中低下と同時に不均一な気孔開閉が起こることが、不均一性を考慮した光合成のシミュレーションと葉における気孔開度分布の直接観察結果から明らかになった。光合成の日中低下量は気孔開度分布様式に依存しており、またフラックス観測から、気孔開度の不均一性は森林群落のガス交換にも影響を与えていることが指摘されている。従って、森林全体のガス交換量を把握する上でも、実際のフィールドにおいて不均一な気孔の開閉メカニズムを解明する必要性が高まっている。

本研究では、個葉で光合成日中低下が報告されている冷温帯落葉樹を対象に、不均一な気孔開閉が起こっているのかをポット苗と林内実験により調べた。個葉光合成速度の日変化をLi-cor社のLI-6400を用いて測定すると同時に、各時間帯にスンプ液を用いて葉の表皮のレプリカを取り、顕微鏡観察により気孔開度分布様式を明らかにした。ポット苗のミズナラとブナでは、2010年6月の光強度、葉温およびVPD(葉-大気間の蒸気圧差)が日中大きく上昇した日の光合成日中低下時にbimodalな気孔開閉が見られた。一方、岐阜大学高山試験地のミズナラでは、2010年7-8月の光合成日中低下時においても不均一な気孔開閉は見られなかった。これはポット苗の測定条件と比べて、高山では強光下でも葉温やVPDが低く保たれていたためだと考えられる。以上の結果から、不均一な気孔開閉は、特定の樹種で見られるというよりも、日中葉温やVPDが急激に上昇する条件に置かれた葉で見られる現象であることが示唆された。


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