| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-093

葉の発生過程から葉脈におけるMurrayの法則の成立を考える

*種子田春彦(東京大・理)

植物は,体内に張り巡らされた道管のネットワークによって,根で吸収した水を体の隅々にまで送る.道管は強い負圧に耐えるために二次壁で厚く肥厚し,多くの構成コストを必要とする.このため,選択圧の中で,効率の良く作られた道管のネットワークが進化したと期待される.

Murray’s law(モーリーの法則)は,こうした前提に基づいて作られた道管のネットワークが,「木部が分岐するときに,分岐前の木部に含まれる道管直径の3乗の合計と分岐後の木部に含まれる道管直径の3乗の合計とが等しくなる」ことを予測した(McCully et al. 2003).これまでの研究から,モーリーの法則は,複葉の側小葉と中軸との間で成立することが確認されてきた(McCully et al. 2005, Sperry et al. 2008).

本研究は,こうした形態的なパターンが現れる発生学的な必然性を,タバコ(Nicotiana tabacum L. ‘SR1’)の主脈と側脈を用いて解析した.葉の展開パターンに対する,主脈基部の木部の発達の様子を観察した.道管の直径は,葉の長さが最終サイズの30%程度に達したときにほぼ決定していた.一方で,道管の数は,葉の展開に合わせるように増加した.この解析を最終サイズの異なる複数の葉で行ったところ,木部の発達に要する時間は葉の最終サイズに依らずほぼ一定であり,道管直径や数の増加速度のみが異なっていた.そして,これら道管の直径や数の増加速度は,葉の最大伸長速度に比例しており,こうした発生過程によって,主脈木部の道管の直径と数はそれよりも先端にある葉身の葉面積に応じて一義的に決まることが示唆された.

当日の講演では,同様に側脈でも解析した結果を合わせて,モーリーの法則が成り立つ発生学的根拠について考察する.


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