| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-130

広葉樹の展葉期における葉組織中のセルロースの酸素安定同位体比の変化

*隠岐健児,大橋達矢,松尾奈緒子(三重大院・生物資源)

植物の葉内水の酸素安定同位体比(δ18OLW)は蒸散に伴い上昇するため,瞬間的な蒸散特性を表す.セルロース合成の際にこの葉内水とトリオースリン酸の間で酸素原子の交換が起こるため,葉組織中のセルロースの酸素安定同位体比(δ18OC)はその葉の長期平均的な蒸散量を反映する.蒸散量とδ18OLW,δ18OCの関係は理論的に示され,室内・圃場実験による検証が行われているが,野外での検証例は極めて少ない.そこで本研究では,自然条件下でのδ18OCの季節変動や蒸散量との関係について考察する.2009年6月から2010年10月まで三重県津市の三重大学構内において,落葉広葉樹のサクラと常緑広葉樹のクスノキから葉を採取し,葉有機物中のセルロースを抽出してδ18OCを測定した.葉の構造ができあがる展葉期には4日に一度,それ以外は一か月に一度の頻度でサンプリングを行った.また,葉の採取日に個葉の蒸散速度と気孔コンダクタンス,葉面積,葉面積あたりの乾燥重量,環境条件を測定した.δ18OLWは蒸散速度,気温,相対湿度の観測値からFarquhar and Lloyd (1993)のモデルを用いて推定した.

展葉期(4,5月)のδ18OCはクスノキ,サクラともに変化がみられなかった.一方,2009年2010年ともに6月から9月にかけて,クスノキ,サクラの両方ともδ18OCは低下した.葉面積は5月下旬に最大に達し,葉面積あたりの乾燥重量は5月以降も増加していることから,展葉期は葉組織中のセルロース(構造炭水化物),その後はそれ以外の非構造炭水化物の割合が増加したと考えられる.6月から9月にかけてδ18OCが低下した要因としては,夏季の高い気孔コンダクタンスがδ18OCに反映された可能性が考えられる.


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