| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-133

トウヒ属の種内および雑種の開葉フェノロジー

*田村明(森総研林育セ北海道),生方正俊(森総研林育セ北海道),羽原陽子(森総研林育セ北海道)

アカエゾマツ(Picea glehniii)は北海道の主要な造林樹種である。また、ヨーロッパトウヒ(Picea abies)は北海道に天然分布していないが、明治末期以降から盛んに造林された樹種である。一方、アカエゾマツを雌親に、ヨーロッパトウヒを雄親(花粉)とした交雑種は、アカエゾマツより格段に優れた初期成長を示し、より多くCO2を吸収できる可能性があることが分かってきた。これらの交雑種を普及する場合、開葉時期が早いと晩霜害等を被る危険性がある。2010年5月から6月にかけて、北海道育種場(北海道江別市野幌)に植栽されているヨーロッパトウヒ、交雑種およびアカエゾマツの開葉時期について調査した。その結果、ヨーロッパトウヒが最も早く開葉した(平均5月30日)。一方、アカエゾマツの開葉時期の平均は6月10日だった。アカエゾマツの種内交雑家系の開葉時期を調べた結果、家系によって大きな違いがあり、6月2日~6月16日までのバラツキが見られた。開葉時期が早い雌親は、雄親として関与する場合でも開葉時期が早い傾向が見られた。従来から言われているように、開葉時期は遺伝性の強い形質であると考えられる。アカエゾマツ×ヨーロッパトウヒの交雑種の開葉時期はアカエゾマツとほぼ同じだった(平均6月11日)。家系別に開葉時期を調べた結果、アカエゾマツと同様に家系によって大きな違いがあり、6月2日~6月18日までのバラツキが見られた。交雑種はヨーロッパトウヒよりも雌親種であるアカエゾマツと同じ時期に開葉する傾向があり、晩霜害等の被害は小さい可能性がある。しかし、家系によって大きなバラツキがあるため、交雑種を普及する場合には家系単位で管理・生産することが、より好ましいと考えられた。


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