| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-302

絶滅危惧種ヒヌマイトトンボの生息地管理からみたヨシの個体群動態

*寺本悠子,渡辺守(筑波大・院・生命環境)

汽水域に成立するヨシ群落に依存した生活史をもつヒヌマイトトンボは絶滅危惧種Ⅰ類に指定されている。1998年に三重県伊勢市の下水道処理施設建設予定地内のヨシ群落(既存生息地)内で発見された本種の地域個体群は、施設が完成したのちは生息地の環境変動により消失すると予測された。そこで2003年、隣接する放棄水田にヨシの地下茎を密植して新しい生息地を作った(創出地)。創出地における本種は年々増加し、現在では、既存生息地と同等の個体群サイズに達している。2003年~2008年、既存生息地と創出地のヨシ群落内にコドラートを設置し、月ごとのシュートの加入数と消失数、シュート径、自然高を測定した。ここで、3月までに出芽したシュートを一次ヨシと定義し、翌月以降に出現したシュートを二次ヨシと定義した。既存生息地の一次ヨシの個体数は緩やかに減少し、8月までに30%が消失した。この間に二次ヨシが順次加入したので、結果的にヨシ群落のシュート数は安定していた。二次ヨシのシュート径は一次ヨシの太さとほぼ同等であった。二次ヨシの平均自然高は各調査回において一次ヨシより低かったが、8月にはほぼ同等の高さに達している。ヒヌマイトトンボ成虫の飛翔季節は8月前半までなので、これらの結果は、一次ヨシが成虫の生息環境の構築(群落下部の相対照度が10%以下)に重要な役割を果たしているといえた。創出地における一次ヨシの数は既存生息地よりも多かったが、月単位の消失率は同等であった。二次ヨシの加入数は、一次ヨシと同様に既存生息地よりも多かったが、シュート径や自然高は既存生息地よりも低かったので、シュート数の多さがヒヌマイトトンボ成虫の生活空間を良好に維持する結果になったといえる。したがって、ヒヌマイトトンボにとって、一次ヨシの生長とそれが形成する群落構造が重要であると考えられた。


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