| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-305

有性生殖をする絶滅危惧植物アオグキイヌワラビの遺伝構造―複数生育地にまたがる遺伝的固定―

*伊津野彩子(京大・農),高宮正之(熊大・自然科学),兼子信吾(京大院・農),井鷺裕司(京大院・農)

アオグキイヌワラビは、イワデンダ科メシダ属に分類されるシダ植物であり、4倍体で、有性生殖によって繁殖することが知られている。現在生育が確認されているのは、福岡、熊本、鹿児島、宮崎の4集団の約100個体のみであり、絶滅が危惧されている。本研究では、野生に生育するアオグキイヌワラビ全個体を対象に、新たに作成したマイクロサテライトマーカー15座を用いてジェノタイピングを行い、その遺伝的多様性を評価した。

1遺伝子座あたりの平均アリル数 (A) は1.8で、同属近縁種であるヤマイヌワラビ (A=3.8) 、タニイヌワラビ (A=3.9) 、ツクシイヌワラビ (A=2.8) に比べて少なかった。また、15遺伝子座で検出されたアリルの組み合わせは、67%の個体において同一であった。これらの結果から、アオグキイヌワラビが保有する遺伝的多様性は著しく低いことが分かった。また、4倍体種を対象にマイクロサテライトマーカーのピークパターンから生じうる遺伝子型をシミュレーションする解析ソフトATetra (Van Puyvelde 2010) を用いて、集団間の遺伝的分化FSTを算出した。FSTは多くの集団間で0.01程度であり、現存する集団はほとんど遺伝的に分化していないことが明らかになった。さらに胞子のジェノタイピングを行ったところ、各々の胞子は胞子体とは異なるピークパターンを示し、4倍体胞子体が固定ヘテロ接合をしていないことが判明した。


日本生態学会