| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-340

知床半島におけるエゾシカによる森林植生への影響の評価と推移予測

*渡辺修(さっぽろ自然調査館),石川幸男(専修大道短大),荻原 裕(北海道森林管理局),三宅悠介(環境省釧路自然環境事務所)

知床半島は世界自然遺産にも指定され、原生的な自然環境がよく残されている地域である。しかし、近年エゾシカの個体数密度が上昇し、植生の急速な改変が進んでいる。針広混交林を主とする森林部でもエゾシカの影響が強く、樹皮剥ぎによる特定樹種の枯死や、広葉樹稚樹群の消滅などの影響が見られている。本発表では、半島内における森林への影響を地形・植生の条件ごとに整理し、エゾシカ密度の増加による森林植生の変化の過程を整理した。また、囲い区と開放区のモニタリング調査から、森林構造の推移と更新状況を解析し、現在の採食圧を受けつづけた場合と、採食圧が低下した場合の森林の推移を予測した。

森林への影響については、2006年から2009年にかけて林野庁・環境省により設置された61の固定調査区を用いて解析した。100m×4mの調査区で毎木調査と林床植生調査を行ない、樹皮・下枝・稚樹・ササ類・林床植生のそれぞれについて、エゾシカの利用可能資源量と採餌量を把握した。これをもとに地形・植生の条件ごとに、エゾシカの利用状況をまとめ、ヘリセンサスなどから推定されるエゾシカの越冬密度との関係を検討した。

森林構造と更新状態の推移については、半島内2箇所に設定された固定調査区の毎木調査・稚樹調査の結果を用いて解析した。それぞれにエゾシカを除外した囲い区と開放区が1haずつ設置されており、エゾシカ急増後にそれぞれ3年間と6年間エゾシカの影響を除去した結果について、開放区と比較して検討した。エゾシカの採食圧下では、稚樹による更新がトドマツのみに限られ、ナナカマド・イチイなど選好性が高い樹種は減少し続けているが、囲い区では設置後3年目以降から稚樹の更新が見られた。


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