| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-082

好樹液性昆虫が利用できる樹液場の分布

*山田啓介,小池文人(横浜国大院 環境情報)

カブトムシ属やクワガタムシ科などの大形甲虫は,日本においては文化的に人気がある.これらの甲虫は,成虫の餌資源や交尾のために樹液場を利用する好樹液性昆虫である.樹液場は好樹液性昆虫にとって非常に重要であるが,樹液場を形成する樹木と樹液場の分布に関する科学的な知見はほとんど存在しない.そこで本研究では,北海道から屋久島までの気候帯において,丘陵地や都市などのさまざまな景観における樹液場の分布特性を明らかにすることを目的とした.

調査は北海道から屋久島までの気候帯ごとに,また,同じ気候帯下における異なる景観パターン(丘陵地,平坦地氾濫原,都市)ごとに1km×1kmの調査地域を設けた.ラインセンサス法により調査地域内に500mのラインを3本設定し,ラインから片側5mの調査範囲内に出現した対象種の樹種,胸高直径,樹液の有無などの特徴を記録した.対象樹種は,好樹液性昆虫の採集報告のあるブナ科やタブノキ科,ヤナギ科などの50種である.

調査の結果,同一の樹種でも気候帯によって樹液場形成に違いがあることが確認された.クヌギやコナラは,冷温帯においては高頻度で樹液場が形成されていたが,暖温帯での樹液場形成はまれであった.マテバシイは,亜熱帯では高頻度で樹液場が形成されていたが,より冷涼な暖温帯では樹液場が形成されていなかった.また,市街地の街路樹であっても暖温帯のタブノキは高頻度で樹液場が形成されていた.このような樹液場形成のパターンは,主に穿孔虫の気候的な分布に大きな影響を受けていると考えられた.景観や樹木サイズの要因については,カミキリムシ類(冷温帯のナラ類のシロスジカミキリ,暖温帯タブノキのホシベニカミキリなど)によると思われる樹液場は林縁の小径木に形成される傾向が検出されたが,キクイムシ類(亜熱帯マテバシイのカシノナガキクイムシ)では検出されなかった.


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