| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-087

三重県池の平湿原堆積物の花粉・微粒炭分析からみる過去1000年間の火事史と草原の成立・維持過程

*林 竜馬, 高原 光(京都府大・生命環境), 西村 亮(林野庁)

紀伊半島高見山地の倶留尊山周辺では、過去から山焼きが行なわれていたことが知られており、尾根の西側に位置する曽爾高原においては毎年の火入れによって現在でもススキ草原が維持されている。曽爾高原では、約1500〜1000年前以降から連続して火事が発生し、草原植生が維持されてきた(Inoue et al., in press)。本研究では、倶留尊山の東側に位置する三重県池の平湿原で採取した堆積物試料の花粉分析と微粒炭分析から、同地域における過去1000年間の火事史と草原の成立・維持過程についてのさらなる検討を行った。花粉分析の結果、約800年前(cal BP)以前には周辺にアカガシ亜属やスギ、モミの生育する森林が広がっていたことが示された。しかし、約800年前(cal BP)以降になると、微粒炭量が急増し、アカガシ亜属花粉の減少とコナラ亜属花粉の増加、さらにはイネ科やヨモギ属を中心とする陸生草本花粉の増加が認められた。これはこの時期以降、池の平湿原周辺でも連続的な火事の発生に伴って、常緑カシ類が減少する一方で、落葉ナラ類や草原性植物の増加が起こったためと考えられる。さらに、約500年前(cal BP)以降にはアカマツに由来すると考えられるマツ属複維管束亜属花粉の増加とともに、陸生草本花粉の出現率のさらなる増加が認められたことから、人間活動による周辺植生への撹乱の強度が高まって、池の平湿原周辺でのアカマツ二次林の形成と草原の拡大がおこったことが示唆された。また、堆積物の表層付近では微粒炭量が急減し、マツ属複維管束亜属花粉と陸生草本花粉の減少、そしてスギ属花粉の急増が認められた。これは、戦後における人間の自然利用形態の変化に伴う、二次林や半自然草原の減少とスギ植林地の増加を記録しているものであると考えられる。


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