| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-089

ヒガンバナの稔性と発芽について

*瀬戸良久,武市早苗,中嶋克行 (たけいち醫學研究所)

日本に自生するヒガンバナは、すべて3倍体(2n=33)であり、不稔性の植物として広く知られている。しかしながら, 本報告者らの観察では野生条件下で, 自然結実したヒガンバナ花茎をしばしば認めることがあることから, 2007年から2年間にわたり詳細な自然結実調査を行った。本調査ではヒガンバナの閉花から結実までの経過観察と共に, 完熟種子を用いて発芽試験を行い, 発芽する割合の調査, 小鱗茎形成の様相, 次いで出葉するまでの一連の経過等も含めて観察したので報告する。

【結果】

1)今回調査した4ヶ所の野外集団のなかに開花・種子形成するものが存在した。

2) 結実花茎には花茎基部から枯れ上がり変化を認めるものと種子が出来上がるまで変化を認めないものがあり, 両者とも果実(蒴果)の成熟までにはおよそ60日を要した。

3)低温で保存した種子を播種したところ, 3月下旬から 4月上旬に発芽した。50粒中13粒(26.0%)に発芽が確認され, 特に種子重量が重いものほど発芽能力を有しているものが多かった。

4) 種子発芽から小鱗茎形成までの経過については, まず地上で種皮を破り, 胚軸を地中に伸ばした後, 種皮から1.5㎝程度離れた部位に小鱗茎を認めた。なお、小鱗茎の完成には発芽から85日前後であった。

5) 小鱗茎形成後の新根の発根時期は7月上旬から9月上旬にかけて観察されたが, 出葉時期においては9月下旬に一斉に第1本葉が出葉した。さらに60日程度経過した頃に第2本葉の出葉が観察された。

以上のことから, ヒガンバナの野外集団のなかには開花・種子形成するものが存在し, しかも種子は正常に発芽する能力を有していることから, 完全不稔ではなく極めて低稔性の植物と受けとめることができ, 発芽するための環境がととのった際には種子繁殖が可能な植物と考えられる。


日本生態学会