| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-180

気象条件に基づくモンスーンアジア域における感染症媒介蚊個体数の時間的推移の評価

*加我拓巳, 太田俊二(早稲田大学・人間科学)

マラリア感染症を媒介するハマダラカ個体数の時間的推移を正確に予測することは潜在的なマラリアリスクを評価する上で非常に重要である。しかし、これまでの先行研究においては、生息環境が十分に推定できないために限られた地域にしか適用できないモデルがほとんどであった。従って、本研究ではハマダラカの生息環境を気象学的な熱収支モデルと水収支モデルの二つを組み合わせることで正確に再現し、これらを生態学的な個体群動態モデルに組み入れることで、ハマダラカ個体数の時間的推移、とりわけ個体数の季節的な変動と年々における変動を予測できるような新しいモデルの開発を行った。

開発されたモデルの妥当性を検証するために、モンスーンアジア域においてハマダラカの個体数推移の実測データとモデルの予測値のあいだで比較検証を行った。その結果、ハマダラカ個体数の季節的変動に関しては、一年間で個体数が最大になった日をピーク日としたときの、ピーク日における実測値と予測値のRMSEは18.62日であった。これは実測値の測定間隔による誤差を考慮すると妥当な範囲にあると言える。また年々変動に関しても、ピーク日の日付の年変動のトレンドを実測値とモデルの予測値の間で比較を行った結果、どちらも非常に近いトレンドを示した。しかしながら、熱帯域における検証は長期間における実測データが不足していたために十分な検証を行うことができなかった。

このことから、本モデルは従来のモデルでは再現できなかったモンスーンアジア域の温帯、亜熱帯、乾燥帯におけるハマダラカ個体数の時間的推移を高い精度で予測できていることがわかった。しかしながら、特にマラリア被害の大きい熱帯地域での検証が不十分であるため、今後は熱帯域におけるハマダラカの長期的な観測とそれに伴うモデルの拡張が求められるであろう。


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