| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-273

生態的分化と生殖隔離:標高適域の広いミヤマハタザオについて

*山田歩, 瀧本岳(東邦大・理), 恩田義彦, 田中健太(筑波大・菅平セ)

ミヤマハタザオ(Arabidopsis kamchatica ssp. kamchatica)とタチスズシロソウ(Arabidopsis kamchatica ssp. kawasakiana)の2亜種はともに、2つの同一の親種間の雑種由来であることが明らかにされている。このように両亜種は遺伝的に類似していると考えられるにもかかわらず、生息地と生活史は大きく異なる。ミヤマハタザオは中部山岳域周辺だけでも標高30‐3000mに分布する多年草植物である。タチスズシロソウは標高100m以下の湖岸や海岸などに分布する一年草植物である。本研究では亜種間・集団間の交配後生殖隔離の有無と両亜種の生態分化の検証を目的とした栽培実験を行った。

亜種・標高の異なる37の集団から採取した種子を同一環境下で栽培する共通圃場実験を行った。亜種間・集団間で交配後隔離が生じているかを検証するために、亜種内集団内・亜種内集団間・亜種間で人工交配を行って結果率・鞘長を計測した。また、亜種間および標高による生態分化が生じているかどうかを検証するために、種子の発芽から開花までの日数(開花時期)・地上部成長・結果率・鞘長が亜種や標高によって異なるかどうか調べた。

交配実験の結果、亜種間や集団間において結果率や鞘長に明確な違いはなく、交配後生殖隔離は示されなかった。一方で、開花時期は高標高ほど遅く、飽和バイオマスはミヤマハタザオの方が大きく、結果率はタチスズシロソウの方が大きく、亜種や標高による生態分化が示された。

これらの結果から、交配後生殖隔離が弱いにもかかわらず、亜種間・集団間で様々な形質の差異が維持されていることが分かった。これは両亜種の分布が局所的で集団間の距離が離れているために、交配前生殖隔離が強く働いているためかもしれない。


日本生態学会