| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-291

送粉相互作用を介した同所的種分化の理論的可能性

*香川幸太郎(東邦大・理),瀧本岳(東邦大・理)

香川幸太郎*,瀧本岳(東邦大学・理・生物)

送粉相互作用が花の多様性の進化において中心的な役割を担う事が示唆されている。しかし、送粉系において花が多様化するメカニズムを理論的に詳しく解析した研究は少ない。そこで、本研究では送粉相互作用が花とポリネーターの同所的共種分化を促進するという仮説を立て、個体ベースモデルを用いたコンピューターシミュレーションによって、この仮説を検証した。また、花上で訪花するポリネーターを捕食する捕食者の存在が、送粉系における種分化に対して与える影響も解析した。

作成した個体ベースモデルでは、花と昆虫は個体ごとに特定の出現時期を持ち、出現時期が重なるもの同士だけが相互作用するとした。このモデルを用いて出現時期の共進化をシミュレーションし、出現時期の分化を通した生殖隔離によって種分化が起きるかどうかを調べた。その結果、花と昆虫の出現期間が短い場合には、同所的共種分化が起き得る事が明らかになった。さらに、花上で訪花するポリネーターを捕食する捕食者を加えた共進化のモデルを作成し、捕食者の存在が種分化に対して与える影響を調べた。このモデルでは捕食者も個体ごとに特定の出現時期を持つとした。シミュレーションの結果、捕食者の存在が花と昆虫の多様化を促進することを示唆する結果が得られた。これは捕食者の存在が、頻度の高い形質を持つ花の適応度を下げ、頻度の低い形質を持つ花の共存を促進する作用を持つためだと考えられる。なぜなら捕食者は、個体数が多くポリネーターがよく訪花する花の上で最も増加し、同時にポリネーターを捕食することによって送粉を阻害するからである。


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