| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-297

クワガタムシの性差発現における性決定遺伝子 dsx の役割

*後藤寛貴, 三浦徹 (北大院・環境科学)

昆虫の中には発達した角や大顎, 強靭な前脚など,資源を巡る闘争に使われる「武器」を持つものが存在し, 古くから生物学者の興味を惹いてきた. このような武器形質は性選択により獲得されたと考えられ, 多くの場合オスのみで発現する. 武器形質の性的2型の進化・維持機構については, 行動生態学的研究がなされてきたが, 性差を生じる発生機構に関する先行研究はほとんどない. 本研究では, 性特異的な武器形質発達機構を明らかにすることを目的に, 飼育・維持が容易で, 武器形質である大顎の性的2型が顕著なクワガタムシを用い, 様々な昆虫で性分化への関与が知られる性決定遺伝子doublesex (dsx ) に注目して, その発現・機能解析を行った.

まず, 材料種であるメタリフェルホソアカクワガタ Cyclommatus metallifer から, 365bpのdsx ホモログ配列を単離し, 性差が大きい大顎と, 性差が小さい小顎における前蛹期の発現動態解析を行った. 雌雄ともにdsx の発現量は, 小顎より大顎で高い傾向にあった. これより, 大顎の性的2型制御への dsx の関与が示唆された. 次に, RNAi法によりdsx の機能阻害を行った. 結果,dsx の機能阻害をした個体は, 全身で雌雄両方の特徴をもつインターセックス個体になった. どちらの性の特徴がより強く発現するかは, 処理個体の元の性別に依存していた. 特に大顎サイズは機能阻害の影響を強く受け, dsx 阻害処理されたメスでは大顎の発達が見られ,dsx 阻害処理されたオスでは, 大顎の発達が抑制された. これより, 大顎の顕著な性的2型の発現機構へのdsx の関与が明らかとなった.

本発表では, この結果を踏まえ, クワガタの武器形質の性的2型の進化について, 既に知られている内分泌制御機構や他の分子発生機構などと併せて考察したい.


日本生態学会