| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-324

河川改修が魚類群集に与える影響

田中哲夫*(兵庫県立大学),信本励(水棲堂)

兵庫県河川課は、武庫川上流で二分の一確率の治水目標を達成するため、河床や河岸の土砂掘削を主とした河川改修を2003年より開始した。本研究はこの河川改修による物理的インパクトが、生息する希少淡水魚に与える影響を長期モニタリングすることによって河川改修の影響を把握し、さらにその影響の軽減策を提示することを目的としている。掘削の始まる前2002年から試験掘削の行われた2003年以降2010年に至るまで、基準調査区間での水深・底質など物理的環境条件の推移と、この変化に魚類群集がどのように反応するのかの調査を継続して解析している。掘削により、河道幅・水深・流速分布が単調化し、特に局所的な深部が消失し、泥底の部分が縮小した。試験掘削後8年が経過した時点においてもこれらの生息場所要素は完全には復帰していない。これに対応して定置網で捕獲される魚類、特に絶滅を危惧されるシロヒレタビラやアブラボテは、2003・2004年に何故か一旦増加したが、続く2005年から2010年に至るまで減少を続けている。河川改修の目標設定時に、河床勾配をある区間では一定に設計するのが普通であり、流水環境と止水環境がモザイク状に出現するようにはもともと設計されてはいない。今回の河川改修では、計画高水水量を安全に流下させるのに必要な河道断面を確保できれば、河道内に障害物を設置する工夫も凝らされ、また蛇行点の淵も土地買収を伴って実施された。蛇行点また障害物を中心に局所的な深場やそれに付随するシェルターの復活や堆積環境の再生が期待されている。しかしながら河床勾配をある程度長い距離で一定にする河川改修法では、多様な水生生物を育んでいたもともとのハビタートモザイック状態は再創造されないのかもしれない。


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