| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-333

外国産ヨモギの遺伝的撹乱リスク:葉緑体DNAによる評価

*下野嘉子(農環研),黒川俊二(中央農研),西田智子(元農環研),池田浩明(農環研),二神紀彦(環境省)

国立公園など生物多様性保全の重要性が高い地域では、外来植物による生態系への影響が懸念されている。これを受けて、工事跡の法面緑化には、これまで使われてきた外来種に代わって、ヤマハギ、ヨモギ、ススキなどの在来種の利用が推奨されている。しかし、緑化に使用される在来種の99%は、人件費の安い外国で採集されているため、国内の地域個体群に対する遺伝的な撹乱を生じることが懸念されている。本研究では、緑化植物としての流通量が多い在来種ヨモギを対象に、日本国内に分布する自然集団の遺伝構造を明らかにし、緑化に使用されている中国産種子の遺伝子型と比較することを目的に、葉緑体DNAのハプロタイプ解析を行った。

全国の国立公園28箇所より採集された604個体と緑化用中国産種子由来の40個体のヨモギからDNAを抽出し、葉緑体DNA3領域(計2400bp)の塩基配列を調べた結果、31ハプロタイプが見つかった。ハプロタイプ間の系統関係から、それらを大きく5つのグループ(A、B、C、DおよびE)と「それ以外」に分類した。グループAの1ハプロタイプは全国に広く分布していた。またグループAに近縁なグループBのハプロタイプが東北地方に分布していた。九州地方には「それ以外」のハプロタイプが優占していた。それらとは系統的に大きく異なるグループDおよびEのハプロタイプが、北海道、関東および近畿の集団で局所的に見つかった。中国産個体の多くは日本と共通のハプロタイプ(グループAおよびB)を持っていたが、日本には分布しないハプロタイプ(グループD、E、「それ以外」)を持つ個体も少数見つかった。国内の集団において、系統的に離れたハプロタイプが局所的に見いだされた点について、外部から持ち込まれた個体が定着している可能性を検証する必要がある。


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