| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-341

長良川河口堰の稼動による魚類群集の変化

*向井貴彦(岐阜大・地域),古屋康則(岐阜大・教育)

長良川は伊勢湾に注ぐ流程166kmの河川であり,下流部は海抜の低い濃尾平野を流れるため,河口から約35km上流までが感潮域であったとされている.しかし,1995年に河口堰の運用が開始されたことで感潮域は河口から5kmまでの範囲に減少した.そこで,河口堰による長良川下流域の魚類群集の変化について明らかにするため,長良川と平行して流れる揖斐川の感潮域と長良川の堰湛水域の魚類群集について比較した.調査は河口から約7kmの長良川河口堰上流の湛水域と,河口からの距離がほぼ同じ揖斐川の感潮域を定点として2006年4月から11月までの間,月に1回から2回,合計10回おこなった.調査期間中の塩分には両地点で違いが見られ,長良川河口堰上流では一貫して0‰であったのに対して,揖斐川では,それぞれ0–6‰(平均1.5‰)の間で変化した.河口堰上流では16種1504個体,揖斐川では22種3010個体の魚類が採集され,河口堰上流ではオイカワが個体数の88%,揖斐川ではシラウオが74%を占めた.調査日ごとの採集種数は,河口堰上流が0–8種(平均3.9種),揖斐川では4–11種(平均6.9種)であり,毎回のShannon-Weaverの多様度指数は河口堰上流が0–2.07(平均0.77),揖斐川が0.26–2.67(平均1.48)と,揖斐川の多様度が有意に高かった.また,河口堰上流ではシラウオ・スズキ・マハゼ・ビリンゴ・アシシロハゼ等の汽水域に多い魚類がほとんど確認されなかった.シラウオやアシシロハゼは淡水での陸封が可能な魚種であり,揖斐川で確認された魚種の多くは淡水での生息も可能なことが知られている.したがって,長良川河口堰湛水域の魚類群集の変化は単に塩分の低下によるものではなく,河道の単純化と抽水植物帯やベントスの減少によるものと考えられる.


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