| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-101

食用野生植物の分布予測と温暖化影響評価

比嘉基紀*,中尾勝洋,津山幾太郎,田中信行(森林総研・植物生態),松井哲哉(森林総研,北海道)

日本の食用野生植物23種への温暖化影響を明らかにするため,1km解像度の分布予測モデルを構築し,現在と気候シナリオ(RCM20)の2081〜2100年における潜在生育域を予測した。目的変数は,植物社会学ルルベデータベースより抽出した木本植物15種,草本植物5種,シダ植物3種の在・不在データを用いた。説明変数は,暖かさの指数,最寒月最低気温,夏期降水量,冬期降水量,斜面方位,斜面傾斜角度,中地形単位,表層地質,表層地質年代を用いた。分布予測には一般化加法モデルを使用した。モデルの精度検証はROC解析により行なった。目的変数の在の95%が出現する分布確率を閾値として,潜在生育域と非生育域を区分した。

分布予測モデルの精度はオニグルミ,ガンコウラン,コシアブラ,コケモモ,ツノハシバミ,トチノキ,ヤマモモ,チシマザサ,ヤマノイモ,クサソテツで高かった(AUC 0.8以上)。一方,幅広い環境に出現するタラノキやヨモギ,ゼンマイ,ワラビなど7種のAUCは低かった(AUC 0.7未満)。将来の気候シナリオにおけるヤマブドウ,トチノキ,ツノハシバミ,コシアブラ,チシマザサ,クサソテツの潜在生育域は,移動を考慮しない場合,現在の気候下の52.8〜63.1%まで減少すると予測された。食用野生植物23種では,温暖化により九州,中国,四国地方や中部,東北地方の低標高域で収量の減少が予測される種が存在する一方で,影響の少ない種(ヤマノイモ,タラノキ,ゼンマイなど)も存在することが明らかとなった。食用植物は市民の認知度が高いことから,収量を広域でモニタリングすることにより温暖化影響の検出に寄与すると推察される。クサソテツのように分布域が気候と対応し,かつ移動能力が高く寿命が短い植物は指標種となりうる。


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