| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-200

東京湾奥部人口湿地におけるクロベンケイガニの放仔生態

*阿部絢香,風呂田利夫(東邦大 理)

クロベンケイガニは河川感潮域から淡水域に生息する陸生のカニである。系統的にも近縁であるアカテガニやベンケイガニは幼生放出行動に半月周リズムとの同調性を見せることが知られているが、クロベンケイガニに関しては明らかではない。本研究では抱卵と幼生放出の2つの点からクロベンケイガニの幼生放出行動の半月周リズムとの同調性を検討した。

千葉県市川市行徳鳥獣保護区内で2010年5月31日から10月1日まで毎日、淡水水路3地点と満潮時に海水の影響を受ける感潮上部1地点で放出されたゾエア幼生を採集した。調査地4地点の水路にそれぞれトラップを仕掛け、およそ24時間放置したのちにトラップ内の水を回収しゾエア幼生がいるかどうかを確認した。また雌の抱卵状況の調査を週1回行った。観察された卵は卵色と眼点の出現から4段階に分けて記録した。野外で採集されたゾエア幼生の種同定を行うために飼育下でクロベンケイガニの幼生を放出させ、ゾエア幼生の飼育を行った。

幼生放出調査では4地点すべての水路でクロベンケイガニのゾエア幼生が確認された。確認されたゾエア幼生はすべて1令期幼生もしくはプリゾエアであった。また幼生が採集された日の潮汐との同調性はみられなかった。抱卵調査においてはのべ868個体のメスを捕獲し、抱卵個体は73個体であった。抱卵個体出現のピークは6月21日と8月16日でそれぞれ20%であり、抱卵個体の出現は9月9日の調査が最後であった。抱卵雌の卵の発生段階に時期的同調性は見られなかった。

幼生が海水の影響を受けない淡水水路すべてで採集されたことから親ガニは生息場所近くの淡水中で幼生放出を行うことが明らかにされた。また抱卵雌の卵の発生段階に同調性が見られなかったこととゾエア幼生が潮汐リズムに関係なく確認されたことから、東京湾に生息するクロベンケイガニはその幼生放出行動に半月周リズムとの同調性を持っていない可能性が高い。


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