| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-208

クワヒョウタンゾウムシの倍数性変化-低温処理の影響-

*多田泰紘, 西田千鶴子, 片倉晴雄(北大院・理)

ゾウムシ類には単為生殖が高頻度に見られ、一部の種は種内に両性生殖個体(以下、両性型と略)と単為生殖個体(単為型)を含む。これらの単為型は、様々なレベルの倍数性を示すことがある。竹内(1986)は、両性型と単為型を含むハイイロヒョウタンゾウムシCatapionus gracilicornisにおいて、産卵前後に低温(0-7℃)にさらすと、卵の倍数性が変化する事、および2倍体の両性型が倍数性の異なる単為型を産出することを発見し、ゾウムシ類の倍数性と繁殖様式の変化が冷涼な地域において現在でも生じている可能性を指摘した。本研究では、2倍体の両性型と2-5倍体の単為型が知られているクワヒョウタンゾウムシScepticus insularis(以下クワヒョウタン)を用いて、同様の低温処理が倍数性および繁殖様式に及ぼす影響を調べた。なお、竹内は本種の単為型においても低温処理によって倍数性が変化する事を報告している。今回の実験では、2倍体両性型は低温処理の影響を受けず、2倍体の両性型を産出した。一方、単為型を低温処理した場合には竹内の予備実験と同様に倍数性が変化した。しかし、単為型の卵の倍数性は恒温条件(23℃)下でも変化する場合があった。以上の結果は、クワヒョウタンにおいては繁殖様式の変化にも倍数性の変化にも低温条件はそれほど大きな役割を果たしていないことを示唆している。分子系統解析の結果は本州と北海道に広く分布するクワヒョウタンの単為型が単一起源であることを示しており、本種においては両性型から単為型への移行は稀にしか生じないと思われる。またハイイロヒョウタンとクワヒョウタンで異なった結果が得られたことから、単為生殖ゾウムシには倍数性変化の要因や単為生殖の進化プロセスが複数存在する可能性がある。


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